04.導入編
1、導入編
▼導入編は全て目を通すことを推奨する。本シナリオの雰囲気を掴む一助になるはずである。
探索者達の導入には、大きく分けて2つのパターンがある。1つは、黒ヶ峰町に攫われてくる以前の記憶か、前回脱出を試みたときの記憶
を夢に見て違和感を感じるというもの(※1)。もう1つは黒ヶ峰町で起こる何らかの出来事から情報を得るというもの(※2)。この導入編で
は、それら2つを項目別にまとめる。その性質上、複数人の探索者をこの2つのパターンに割り振ることを推奨する。
また、大前提として、探索者達は偽りの記憶によって与えられた役割に沿って日々生活している。探索者のキャラクター設定をわざと無
視することによってPLは大きな違和感を覚えるだろう。加えて、敢えて一部の探索者は設定通りにし、もう一方の探索者は前述の通り設
定を無視することでさらに大きな違和感を与え、導入として上手く機能させることができるかもしれない。
※1:記憶を夢として見る人。以下、ハンドアウト①とする
※2:記憶を夢として見ない人。以下、ハンドアウト②とする
2、探索者全員に共通する事柄
職業や黒ヶ峰町に訪れた理由に関わらず、探索者全員には共通点がある。以下に記す。
・偽りの記憶を植えつけられており、この町の住人であるという思い込みの中で生活している。
・黒ヶ峰町においては何らかの理由で家族はおらず、独り身である。
・探索者情報に記載されているあらゆる資産・物品は黒ヶ峰町には存在しない。
・あまり裕福ではなく、個人的な資産をあまり有さない。車などもってのほか。
・携帯電話、スマートフォンは存在しない。基本的には各家庭の電話機(と思い込んでいる無線機)
を使うことになる。
3、ハンドアウト①
前回の脱出に失敗した際の記憶や、黒ヶ峰町に連れてこられる前の記憶を夢として見るところからシナリオに入る。前述の「脱出に失敗
した際の記憶」をパターン1、後述の「黒ヶ峰町に連れてこられる前の記憶」をパターン2として大別し、それぞれ数例ずつ記載していく。
パターン2には特定の職業の探索者にのみ適応しうる導入があるため、優先的に割り振ると良いだろう。
○パターン1:“脱出に失敗した際の記憶”
・パターン1-1
推奨される探索者:誰でも
前回脱出を試みた際の記憶。基本的にどんな探索者にでも適応しうる導入である。ここで探索者に仄めかすのは以下の情報である。KPは
これを把握した上で進行させることを推奨する。また、プレイヤーに黒ヶ峰町の雰囲気を掴んでもらうのも目的の1つである。
"知らないはず、体験したことがないはずの出来事の夢を見る"
"協力者である男性(もしくは女性)の存在"
"敵対するモノの存在"
探索者は追われていた。月のない夜、見覚えのない路地を走っている。「○○さん早く!」同行者の男性(もしくは女性)(※1)が探索
者を急かす。後ろからは"何か"が迫っていた。明確に姿を見たわけではない。しかし恐ろしいと感じる何かが、猛然と探索者に迫ってい
た。足を止めず振り返るが、そこには何の姿もない。しかし"何か"が迫ってくる気配だけは確実に近づいてくる。
突然後ろから足首を掴まれた感覚がした。そして体が宙に浮いたかと思えば、次の瞬間には探索者は仰向けになって地面に倒れていた。
手に持っていた拳銃が音を立てて地面に転がる。ちくしょうめ。これじゃあ手を伸ばしても届きそうにない。足首を掴んでいる"何か"を蹴
ってみるが、空を切るばかりだ。それなのに足首の拘束は未だ解かれていない。
「早く逃げろ!」
同行者にそう叫ぶと同時に、ほのかに甘いような香りがかすかに漂ってきた。
(<目星>成功→どうやら探索者は黒い煙のようなものを吸い込んでいるようだ。)
探索者の意識が遠のいていく。遠くで女性が叫んでいるような気がするが、何を言っているのかわからな―――
―――けたたましい目覚まし時計の音が鳴り響き、探索者はアパートの一室で目を覚ました。数年前の地すべりで斜面の家が何件も巻き
込まれ、住居を失った住民達のためにその場しのぎで用意されたアパートだ(※2)。早くまともな家に移り住みたいが、安月給の身には過ぎ
た望みだ。
それにしても、最近こんな夢をよく見る。どうにも似たような内容の夢ばかりだが、昔こんな映画を見たことがあるような気もする。
(<アイデア>成功→いや違う。映画ではない。だとしたらこの夢は一体なんだ?)
ともあれ、おかしな夢よりまずは生活だ。働かざるもの食うべからず。ただでさえ給料が少ないのだ、仕事に行かなければ今月の家賃もま
まならない。身支度を済ませた探索者は部屋を後にし、職場である黒田織物工業へと向かうのであった。
※1:協力者である男性、もしくは女性。両方用意してあるので、探索者の好みに合いそうな方を選ぼう。
※2:もちろん地すべりなど嘘っぱちである。拉致してきた人材をまとめて監視するためにアパートに押
し込み、それに違和感を与えないための欺瞞である。
・パターン1-2
推奨される探索者:誰でも
これもパターン1-1と同じく、前回脱出を試みた際の記憶。基本的にどんな探索者にでも適応しうる導入である。ここで探索者に仄めかすの
は以下の情報である。KPはこれを把握した上で進行させることを推奨する。
"知らないはず、体験したことがないはずの出来事の夢を見る"
"拳銃を入手でき、躊躇わず発砲するほどの逼迫した状況である(※2)"
"敵対するモノの存在"
探索者は拳銃(※3)を構える。もちろん使ったことなどないが、そうこう言っていられる状況ではない。追ってくる"何か"に対し立て続け
発砲する。勇敢というにはあまりに無謀な、破れかぶれの抵抗だ。
(<拳銃>→成功・失敗は関係ない。対象は闇を彷徨う影であり、物理攻撃は何の意味も為さない。)
空には厚い雲が立ち込め、ここ数日月の姿はない。その上、少し町を外れたここら一帯にはろくな照明もない。故に辺りは完全な暗闇であ
り、追跡者の姿を視認できるのは手遅れな間合いになってからだろう。
どうやら今しがたの抵抗は徒労に終わったらしい。発砲音は辺りに虚しく響き渡り、"何か"に命中した気配はない。まあ、真っ直ぐ撃て
たかすらわからないのだから、当然といえば当然だ。何かの思い違いをしていなければ今ので弾は撃ち切ったはずだ。こうなるともうどう
しようもない。
拳銃を投げ捨て、逃げようとしたその時だ。体が何かに掴まれてふわりと舞ったかと思えば、湿った土の上に倒れ伏していた。ちくしょ
うめ。土が口の中に入った。土を吐き出して立ち上がろうとするより早く、ほのかに甘いような香りが鼻腔を刺激する。
(<目星>成功→どうやら探索者は黒い煙のようなものを吸い込んでいるようだ。)
探索者の意識が遠のいていく。もはや抵抗する気力もない。彼(もしくは彼女)の胸にあった最後のものは、深い絶望と失敗に対する後悔
であった。
―――どうやら、嫌な夢を見ていたらしい。安アパートの一室、探索者は布団の中で目が覚めた。じっとりと嫌な汗をかいており、なか
なかに不快だ。気持ち悪い。数年前の地すべりで住居を失った住民達のためにその場しのぎで用意されたこのアパートに、空調設備などと
いう贅沢品はない。早くまともな家に移り住みたいが、うちの会社が金に寛容にならない限りはまず有り得ないだろう。
それにしたって、最近こんな夢をよく見る。どうにも似たような内容の夢ばかりだが、昔こんな海外ドラマを見たことがあるような気もす
る。(<アイデア>成功→いや違う。海外ドラマではない。だとしたらこの夢は一体なんだ?)
ともあれ、ヒーロー願望がありそうなおかしな夢より、まずは目先の生活だ。働かざるもの食うべからず。ただでさえ給料が少ないの
だ。キリキリ働かなければ明日食う食事にも困る身の上だ。身支度を済ませた探索者は部屋を後にし、職場である黒田織物工業へと向かう
のであった。
※3:警官に扮した狂信者から奪ったものである。至って標準的な品。
・パターン1-3
推奨される探索者:誰でも
基本的には前述の2つと同様であるが、1つだけ異なる点がある。何かと言うと、"闇を彷徨う影"に関する描写が増えており、いくらか情報
を得ることが出来る。探索者の人数が少ない場合やプレイヤーがリアルマンだらけの卓に遭遇した場合など、スムーズな進行が期待できな
い場合での難易度調整用として用意するものである。なお、情報が増えたことによりプレイヤーが混乱し、かえって進行が妨げられた場合
は己の不幸を呪うなどして対応して欲しい。
基本的にはこれもどんな探索者にでも適応しうる導入である。ここで探索者に仄めかすのは以下の情報である。KPはこれを把握した上で
進行させることを推奨する。
"知らないはず、体験したことがないはずの出来事の夢を見る"
"協力者だった男性の存在"
"敵対するモノの存在と、その力の一端"
男が死んだ。名前はなんだったか。特別仲が良いわけでもなく、信頼の厚い男でもなかったが、それでも死んでしまった方が良いほど悪
い奴ではなかった気がする。一緒にいた期間はさほど長くなく、時折冗談なんかを言い合ったりしたくらいの仲でしかないが、悲しくない
と言えば嘘になる。
ちくしょうめ。名前が思い出せない。男がこの世に存在していた痕跡はもはやほとんどない。なんせ、真夜中より深い黒色の煙に包まれた
かと思えば、その体が唐突に燃え上がったのだ。普通は逆だと思うのだが、あいにく目の前で起こってしまったのだ。この眼か頭がイカれ
ていなければ現実だ。
彼の体は見る見る間に小さくなり、ものの数秒もしないうちにこの世から消え去った。後に残ったものは彼が身につけていた衣服の断片く
らいなものだ。形見というにはあまりにも物悲しい。ああ、駄目だ。どうやったって彼の名前を思い出せそうにない(※4)。
寂れた小屋の壁に、黒いものがちらついた。そちらへ視線を移すと、まるで壁からにじみ出るようにあの黒い煙が溢れ出していた。身体
が凍りついたように言うことを聞かない。煙はどんどん部屋に侵入し、まるで鎌首をもたげる蛇のように揺らめいている。その煙の中心
だ。真っ赤に燃える3つの瞳が合わさったような輝きが瞬いたように見えた。もう扉も窓も煙の向こう側だ。将棋で言えば詰み、チェスで
言うならばチェックメイトだ。自力ではどうしようもない局面に対し、探索者は目を瞑ることしかできなかった。
―――不気味にも程がある。夢は自分自身の記憶の整理と言うが、こんな趣味の悪い目にあった覚えはない。あってたまるものか。どう
にも近頃、こんなB級ホラー映画じみた夢をよく見るのだが、幼い頃に見た映画がトラウマにでもなっているとでもいうのだろうか?
(<アイデア>成功→いや違う。おそらくそんなものではない。だとしたらこの夢は一体なんだ?)
どうにも何かをするという気分ではないが、それでサボれるのは大学までだ。いつも通りに起床したのだから、いつも通りの朝食を摂り、
いつも通りの作業着に着替え、いつも通りに出勤しなければならない。朝の5分間は何事より重いのだ。釈然としない気分を頭の隅に追いや
り、探索者はいつも通りの朝に埋没していった。
※4:協力者の男性。前回、共に脱出を試みるも闇を彷徨う影の不意打ちを受けて死亡する。
○パターン2:"黒ヶ峰町に連れてこられる前の記憶"
・パターン2-1
推奨される探索者:探偵、刑事のみ
行方不明者の家族に依頼されて行方不明者を追っている私立探偵や、事件性を認めない上の意向に納得できず独自に行方不明者を追う刑事
など、拉致された人物を追うための何らかの理由を有する探索者に対し推奨される導入。なお、真っ先に捜索を始めるであろう行方不明者
の家族にも適応しうる条件ではあるのだが、ド素人が事件の真相に近づけるとは考え難い。そのため、探偵や刑事などのプロではない限
り、何らかの理由付けをしたほうが良い。
経緯としては、着実に黒ヶ峰町の情報を集め、その存在に迫っていく探索者に対し狂信者達は焦燥を覚える。そして防衛的な措置として、
探索者を拉致し記憶を奪うことで脅威を取り除く。この導入は探索者が捕らえられる経緯と黒ヶ峰町での現状である。この導入において開
示される情報は以下の通りである。
"現実とかけ離れた、しかしリアリティのある妙な夢を見る"
"敵対者は個人ではなく、組織立って行動している"
"敵対者は自身の存在を隠すためなら手段を厭わない"
しくじった。どうやら薮をつつきすぎて蛇を出してしまったらしい。分厚い雲が月を覆い隠す真っ暗な夜。探索者は真っ暗な山道を外れ
てアテもなく山中を進んでいた。追っていたはずがいつの間にか追われる立場になっていたとは、なんとも皮肉なものだ。
息が上がるのも構わず足を動かし続ける。走っているつもりはないのだが、自然と歩調が上がっている。このオーバーペースもあるが、
心臓がこれほど早く脈打っている理由はそれだけではないだろう。追跡者はもう間近まで迫っているような気さえする。次の瞬間にも肩を
掴まれ、引き倒されてしまいそうだ。しかし、背後を振り返るもその姿はない。ああ、くそったれ。どこまで逃げれば良いんだ。いつまで
こうして逃げ続けたらいいんだ。探索者はいつ終わるともしれない逃亡劇を続けるしかなかった。
―――最近どうにもおかしい。寂れたアパートの一室、布団の中で目覚めた探索者はそう呟いた。普通、夢というのはもっとぼんやりし
たもののはずだ。あんなにリアリティ溢れる夢があってたまるものか。その上、一昨日から同じ内容の夢ばかり繰り返し見ているのだ。こ
れではたまったものではない。まったく、あんな体験をした覚えはないというのに。
普段は黒田織物工業へ働きに行っているが、明後日の日曜日までは休みを取ってある。これで半ば趣味と化している探偵業(とはいって
も、こんな小さな田舎の集落では依頼などないのだが)に勤しむことができる。職場とアパートを往復する退屈な生活の唯一の楽しみだ。
それに2年前から、橘田農園の跡取り娘(もしくは息子※5)が弟子入りさせて欲しいとかなんとか言って着いて回るようになった。今日は
彼女(もしくは彼)と待ち合わせて一緒に町を回ることになっている。約束の刻限を守るため、探索者はさっさとアパートを後にした。
※5:狂信者の手先。一度脱出を試みた探索者に対する監視役。偽りの記憶に対する違和感を和らげるため、この探索者には元々の職業に近
い役割が与えられている。しかしリスクも大きいため、監視役として1名つけている。
また、監視役のNPCとして男女両方用意しているが、探索者が好みそうな方をKPが選ぶと良い。彼または彼女の役割は嫌われない
ことである。上手く探索者一行に紛れ込もう。そしてしかる後に致命的なタイミングで裏切ろう。
・パターン2-2
推奨される探索者:ジャーナリスト(オカルト雑誌記者)など
オカルトスポットの取材にやってきたオカルト雑誌記者や、オカルトマニア、肝試しの下見に来た若者など、何らかの理由で黒ヶ峰町に来
てしまった人。物見遊山に出かけた人が帰ってきたり帰ってこなかったりする黒ヶ峰町(※6)は、一部のオカルトマニアの間で心霊スポット
として話題になっている。
その黒ヶ峰町に取材(もしくは物見遊山)でやってきた探索者は、運悪く黒ヶ峰町の裏側を垣間見てしまう。その場で取り押さえられた探
索者は、敢えなくお参りに参加させられ記憶を操作されてしまった。探索者が目撃してしまったのはまさにえんふくさまのお参りであり、
この導入の夢中で垣間見るのはお参りの断片的な記憶である。
光が見えた。何かが黒く光って、目と頭の中がいっぱいになった。長い。長すぎる。いつまで続くんだ? それともまだ始まったばかり
なのか? ああわからないわからないわからない。なぜこんなところに来てしまったんだなぜこんなことになってしまったんだここは一体
なんなんだ。(※7)
黒い光が頭を、身体を隅々まで満たしていく。ああ、もっとだ。もっと浴びせてくれ。かつてこれほど素晴らしい体験はしたことがな
い。私にはもっとこれが必要だ。ああ、もっと浴びせてくれ!
―――窓から差した眩いばかり朝日で目が覚めた。なにやらよくわからないが、心地良い夢だった。目覚めてしまったのが口惜しく思え
るほどに。だというのに、なぜか夢の内容はさっぱり思い出せなかった。
(<アイデア>成功→いいや、黒い光だ。たしかに黒い光を見たはずだ)
(上記に加えて<知識>成功→黒い光など夢でしかありえない。なぜならこの世に存在しないからだ)
水を飲み、顔を洗い、身支度を済ませたというのにまだ夢の感覚が残っている。もうそろそろ職場の黒田織物工業へ行かなければ遅刻する
いうのに、あと1時間は消えそうにない。妙な感覚を抱えたまま、探索者は安アパートを後にした。
※6:狂信者は黒ヶ峰町にやってきた人全員を捕らえているわけではない。黒ヶ峰町の真相が露見する危
険性があると判断した場合のみ捕え、住人の一部にするのだ。そもそも、簡単に見破れないために
カモフラージュしているのである。
※7:まさに記憶を書き換えられている瞬間である。狂信者達に取り押さえられ、無理矢理陰陽石に額を
押し付けられている状態。これは記憶を失っている最中の描写であるが、プレイヤーが"探索者が黒
ヶ峰町に来てしまったことを後悔している"と受け取るような描写・発言を心がけよう。探索者だけ
でなくプレイヤーも混乱させるのがこのシナリオの目標である。
・パターン2-3
推奨される探索者:誰でも
その他、町に連れてこられる以前の記憶を見る。探索者の経歴や人物像などの設定をきちんと準備しているPLに適用すると良い。探索者
設定に準じた日常生活を送っている様子を夢として描き、その後家族もなく安アパート暮らしをしている工場員という黒ヶ峰町での生活を
描写する。
しっかりと設定を準備しただけにPLは混乱すると思われるが、KPとしては適度にはぐらかし、PLに違和感を与えるのが目的となる。ただ
し、この時点では「探索者設定をシナリオに反映できぬ無能KP」と思われても不利益を被りかねないのでほどほどにされたし。
4、ハンドアウト②
偽りの記憶によって与えられた役割に沿って生活し、黒ヶ峰町で起こる何らかの出来事から情報を得るところからシナリオに入る。ハン
ドアウト①の探索者はほとんどが黒田織物工業に勤めているという記憶を与えられているが、ハンドアウト②は主にそれ以外の職業とな
る。特定の立場、職業でしか得られない情報を含むため、ハンドアウト①より優先度が高い。
基本的には黒ヶ峰町での前任者が何らかの理由で不在となり、その穴埋めとして探索者たちは拉致されるに至る。なお、プレイヤーが以
下の職業を選ばなかった場合、前任者は今日も元気に黒ヶ峰町で働いている。明日の労働英雄は君だ!
○医療従事者
町に唯一ある診療所では最近人手が不足している。院長に扮している狂信者には医療の知識がなく、拉致してきた医師を使っていた。し
かし、前任者の医者が最近使い物にならなくなったため、新たな人材を用意することとなった。それが探索者だ。
金曜の朝、探索者は診療所の休憩室で目を覚ます。退職して田舎に帰ってきたはいいが住む場所がない自分に、院長が快く貸し与えてく
れたのだ。職だけでなく、住む場所まで世話をしてくれている院長へは恩義を感じている。午前7時、いつものように鍵を開け、院長が自宅
から出勤してくる前に診療の準備を進めておく。
するとそこへ、何かに怯えた様子の男性が訪れた。診療時間はまだだと伝えるも、大村 純一と名乗る男性はしつこく、大人しく帰る様子
はない。話によると、最近よくおかしな夢を見るという。なんでも、夢の中での自分は大手商社に勤めるビジネスマンであり、妻と2人の子
供もいるという。しかし現実の彼は織物工場勤務であり、家族はいないのだ。そして男は先週も来たと主張するが、探索者にそんな記憶は
ないし大村純一のカルテにもそのような内容は存在しない。一番最近の記録でも、去年の暮れに流行ったインフルエンザの治療で診療所に
訪れたものだった。(※8)
しばらくすると大村は諦め、がっかりした様子で帰っていく。それと入れ違いに院長が出勤し、午前の診療が始まった。大村の件を院長
に尋ねても、カルテに記載してある以上のことは何も知らない。
(<心理学>成功・失敗に関わらず→「こちらに好意を持っている」ということのみ)(※9)
また、大村がどんな人物か尋ねるも、早くに家族を亡くし、昔からずっと織物工場に勤めている真面目で勤勉な労働者の鏡のような男と聞
かされるのみである。
※8:大村が黒ヶ峰町に来たのは探索者達と同時期である。カルテの内容はもちろん偽装工作。また、カルテには大村の住所も記載されている
ため、訪ねていくこともできるだろう。
※9:記憶を取り戻していない状態で<心理学>を行っても、成功・失敗などダイスの結果に関わらず「好意を持っている」としか表示されな
い。ほとんどの狂信者も同様である。
○農林業従事者
未来の麻薬農家。拉致された理由は言わずもがなである。通常、3回目のお参りを終えていない者は農家で働くことはない。だがこの探索
者は一度脱走を試みており、より確かな監視が必要との判断で橘田家に住まわせることとなった。橘田夫妻は薬物栽培の監督役の一員であ
り、娘役の美雪は探偵になると言い張るドラ娘を装い、記憶を取り戻した者がいないか探る内偵をしている。ある意味、というか間違いな
く黒ヶ峰町でもトップクラスで監視が厳しい家庭である。
金曜の朝、橘田農園の所有者である橘田夫妻宅の一室で探索者は目を覚ました。数年前の地すべりで家と家族を失って以降、遠い親戚筋
の橘田農園で住み込みの仕事をさせてもらっている。窓のすぐ外を流れる用水路からはかぐわしい香りが漂ってくる。それを辿って少し行
けば、町で3番目の耕地面積を誇る橘田農園がある。
探索者の名を呼ぶおばさんの声に導かれて居間へ行くと、農園で採れた野菜を中心に据えた朝食が食卓に並んでいた。よく日に焼けた、
いかにも田舎の農家といった出で立ちの橘田夫妻は、今日の仕事内容をああだこうだ話しながら朝食を摂っている。
ふと、朝食の席に橘田夫妻の一人娘、美雪の姿がないことに気がついた。今年で21歳にもなるが農園の仕事も手伝わず、探偵になるとか
言い張って毎日町中をふらふらしている娘だ。夫妻も娘には非常に甘く、美雪の素行には何も言っていないようだ。
身支度を済ませ、さっそく言われた仕事に取り掛かる。だがこの月曜日からはどうにもおかしい。以前は畑仕事もしていた気がするのだ
が、最近は機械の燃料を買いに行かされたりやたらと荷物の配達を頼まれたりと、今週に入ってから一度も畑に出してもらっていないの
だ。どこか違和感を覚えつつも、橘田夫人が注文していたふかし布を受け取るため、探索者は徒歩で黒田織物工業へ向かうのだった。
5、拉致された理由
概要にも記載したが、探索者達が拉致された理由は大まかに2通りある。一方は黒ヶ峰町の管理運営に必要であると判断されたがために拉
致されてきた者。もう一方は何かしらの理由で黒ヶ峰町を調査していたり、迷い込んでしまったがために、黒ヶ峰町の存在発覚を恐れた狂
信者に捕らえられた者である。前者を能動的理由で拉致された者、後者を受動的理由で拉致された者として大別し、項目別にまとめる。
○能動的理由で拉致された者、及びその理由
・医師 :上記導入例を参照。
・農林業従事者 :上記導入例を参照。
・エンジニア :自動車整備工や電気技師など、黒ヶ峰町の運営にはエンジニアが不可欠である。
・ビジネスマン :町に数社ある会社の体裁を保ち、運営しているように見せかけるため。
・法律家 :町に数社ある会社や公的機関の体裁を保ち、運営しているように見せかけるため。
・ディレッタント:近隣市町村の行政とのパイプ構築のため。
○受動的理由で拉致された者
上記以外の職業。黒ヶ峰町に迷い込んでしまった不幸な連中。
6、雑記
以上が筆者から提案する導入例である。シナリオのテーマ、雰囲気に沿った内容であれば、必ずしもこの通りにしなければならないというわけではない。探索者の人数や探索者設定など、卓ごとの状況を踏まえて自作しても良い。